オステオパシーの扉 第14回|先に医療機関を受診した方がいい場合は?
オステオパシーの扉|全18回の目次 / 第14回
慢性的に繰り返す首・肩・腰などの筋骨格系の不調については、当院でもご相談いただけます。
その一方で、普段と明らかに違う急な症状や、手技より医療機関での評価を優先した方がよい状態もあります。
この回では、不安をあおるためではなく、安全に施術を利用するために知っておきたい代表的なサインを整理します。
オステオパシーで安心して改善を目指すために、施術者は身体の状態を確認し、その方に合う方法を選びます。普段と明らかに違う急な症状など、手技より医療機関での評価を優先すべき場合を見分けることも、安全な施術の一部です。
まず、救急受診を考える代表的な症状があります。
突然の胸の強い痛みや圧迫感、息苦しさ、冷や汗などがある場合。突然、顔や手足の片側に力が入りにくくなった、ろれつが回らない、言葉が出にくい、急に視界がおかしくなった、といった症状がある場合。今まで経験したことのないような突然の激しい頭痛がある場合。
こうした症状では、首や背中の筋肉をほぐして様子を見るのではなく、救急医療を優先すべきことがあります。
次に、腰痛や脚のしびれで特に注意したい症状があります。
両脚に急に強いしびれや力の入りにくさが出た。股の周囲、いわゆるサドル部分の感覚がおかしい。尿が出にくい、尿や便を漏らすなど、排尿・排便の機能に急な変化が出た。
これらは重い神経の圧迫などを確認する必要がある症状で、緊急の医学的評価が必要になる場合があります。
外傷も重要です。
高いところから落ちた、交通事故に遭った、激しく転倒した後に強い痛みがある。あるいは高齢の方や骨粗しょう症がある方で、軽い転倒のあとから急に強い痛みが出た。このような場合には、骨折などを除外するために画像検査が必要なことがあります。
「歩けるから骨折ではない」とは限りません。
発熱を伴う痛みも注意が必要です。
高熱や悪寒があり、身体の一部に強い痛みがある。急に全身状態が悪くなった。免疫を抑える薬を使っている、最近大きな手術を受けた、といった背景がある場合には、感染症なども考える必要があります。
緊急ではなくても、早めに医療機関で確認した方がよい症状もあります。
理由の分からない体重減少が続く。安静にしていても強い痛みが続く。夜間に痛みが強く、姿勢を変えてもほとんど軽くならない。がんの治療歴があり、新しい強い痛みが出てきた。しびれや筋力低下が少しずつ進行している。
これらがあれば必ず重大な病気だという意味ではありません。しかし、「いつもの肩こり」「身体のゆがみ」と決めつけず、医学的に確認する価値があります。
腹部の症状も同様です。
激しい腹痛、繰り返す嘔吐、血を吐く、便に大量の血が混じる、黒い便が出る、強い発熱を伴う腹痛などでは、腹部への手技を試す前に医療機関での評価が必要です。
では、こうした症状がない場合は、何でもオステオパシーでよいのでしょうか。
そうとも限りません。
大切なのは、症状の経過です。
施術を数回受けても、まったく変化がない。むしろ徐々に悪くなっている。最初とは違う症状が増えている。このような場合には、同じ施術を繰り返すのではなく、一度立ち止まる必要があります。
「治る途中だから痛みが増えている」「悪いものが出ているから大丈夫」と説明して、悪化をすべて好転反応として扱うのは危険です。
変化が想定と違えば、評価をやり直す。それでも分からなければ、医療機関へつなぐ。その判断が必要です。
また、医療機関へ行くこととオステオパシーを受けることは、二者択一ではありません。
病院で骨折や重大な病気がないことを確認したうえで、残っている身体の動きにくさや筋骨格系の不調に対して手技療法を使うこともあります。逆に、オステオパシーの評価中に気になる所見が見つかり、医療機関で検査してもらうこともあります。
大切なのは、それぞれの役割を混同しないことです。
検査や薬、手術などが必要な医学的な問題には、そのための医療があります。一方、慢性的に繰り返す首・肩・腰などの筋骨格系の不調は、当院でもご相談いただけます。身体全体を評価し、オステオパシーの手技で負担に働きかけながら、必要に応じて運動や生活上の工夫も組み合わせて改善を目指します。
患者さん自身にも、覚えておいてほしいことがあります。
「せっかく予約したから、病院へ行かずにまず施術を受けよう」と考える必要はありません。
強い不安があるとき、症状がいつもと明らかに違うとき、急激に悪化しているときには、遠慮なく医療機関を利用してください。
そして施術者には、これまでの病気、飲んでいる薬、最近受けた手術や検査についてできるだけ伝えてください。それらは施術方法を安全に選ぶための重要な情報です。
よいオステオパシー施術者は、「何でもオステオパシーで何とかできます」と言う人ではないと私は考えます。
自分ができる範囲を知り、できないことを認め、必要なときには適切な医療につなぐ。その判断まで含めて、施術の安全性です。
この回で挙げた症状は、すべての危険な状態を網羅した一覧ではありません。症状が強い、急激に変化した、いつもと違う、判断に迷うという場合には、医療機関へ相談してください。
ここで覚えておきたいのは、「危険な徴候があるかを見ること」と「施術院で病名を確定すること」は別だということです。
赤い信号のような症状が一つあったからといって、必ず重大な病気だと決まるわけではありません。反対に、典型的な症状がすべてそろわない場合もあります。だから施術者は、年齢、既往歴、症状の始まり方、全身状態などを合わせて考え、疑わしい場合には無理に施術を続けず医療機関での確認を勧めます。
特に、以前から持病がある方はその情報が重要です。骨粗しょう症、がんの治療歴、血液を固まりにくくする薬の使用、免疫を抑える治療、最近の手術などは、手技の選び方や受診の判断に影響することがあります。「昔のことだから関係ない」と思わず伝えてください。
妊娠中や産後の場合も、すべての手技が禁止されるわけではありませんが、時期や症状に応じた配慮が必要です。強い腹痛、出血、呼吸困難など、産科的・医学的な評価を優先すべき症状があれば、施術より受診が先です。
また、「病院へ行ったけれど異常なしと言われた」という場合でも、その後に症状の性質が大きく変わったなら再評価が必要なことがあります。一度検査したから永久に安全が保証されるわけではありません。
患者さんにとって一番大切なのは、危険な病気を自分で見分け切ろうとすることではありません。「いつもと違う」「急に悪くなった」「何となく心配だ」と感じたときに相談できることです。施術院へ連絡してもよいですし、緊急性が高いと感じる場合には医療機関や救急相談を利用してください。
安全なオステオパシーは、施術の上手さだけで成立するものではありません。施術を始める前に立ち止まる判断、途中で中止する判断、他の専門職へつなぐ判断も含めて安全性です。
次回は、同じ「オステオパシー」という言葉でも国によって資格や制度がどう違うのか、「日本と海外のオステオパシーは同じ?」を整理します。